「2015年6月の読書リスト」

どうやら国民も、安倍政権の正体に気がついたようだ。

きっかけは国会の憲法調査会で、自民党推薦の憲法学者が「今国会に上程されている『安保法案』は憲法違反である」と明言したこと。

これをきっかけに、憲法学者を中心にありとあらゆる学者が「安保法制反対」の声を上げはじめた。

さらに自民党国会議員らが、党内で開催した勉強会で「沖縄のメディアは『左翼』に乗っ取られている」と発言したことで、反安倍政権の声がヒートアップした。

国民は「戦争法案阻止」に向けて動き回っているが、政権サイドには彼らの意見に耳を傾ける姿勢が見られない。

意地でも彼らは法案成立に向けて突っ走るらしいが、そうなったらどうなるのだろうか?’60年安保の再来ということはありえないと思うが…

というわけで、先月読んだ本のご紹介。

トマ・ピケティの新・資本論トマ・ピケティの新・資本論

読了日:6月3日 著者:トマ・ピケティ
イニシエーション・ラブ (文春文庫)イニシエーション・ラブ (文春文庫)

読了日:6月4日 著者:乾くるみ
オシムの言葉 (集英社文庫)オシムの言葉 (集英社文庫)

読了日:6月8日 著者:木村元彦
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)

読了日:6月15日 著者:三上延
ニセコイ 17 (ジャンプコミックス)ニセコイ 17 (ジャンプコミックス)

読了日:6月17日 著者:古味直志
哲学散歩哲学散歩

読了日:6月23日 著者:木田元
数学ガールの秘密ノート 式とグラフ数学ガールの秘密ノート 式とグラフ

読了日:6月24日 著者:結城浩

1.トマ・ピケティの新・資本論

大ベストセラー「21世紀の資本(以下「資本」)」の著者が、2005年~14年に、フランスの中道左派系日刊紙「リベラシオン」に掲載してたコラムをまとめた書籍である。皆様ご存じの通り、彼の代表作「資本」は700pを超える大著の上、書かれている内容があまりにも一般人に理解することが難しいといわれていることから、彼の根本的な主張を理解するためにこの本を読んで見た。

一言で言えば、彼が「資本」で主張していることは、10年以上前からの持論である事がこの本を読めば理解できるだろう。富裕層に対する課税を強化すべきだという彼の意見は、事ある毎に繰り返し出てくるところから見ると、この問題は彼のライフワークというべきかも知れない。このほかにも法制度の不備、多数の問題を抱える教育制度、国内左派のていたらくなど、日本でずっといわれている問題と共通するところがあり、これらの問題は人種も国家も関係なのだということが理解できるかも知れない。

2.イニシエーション・ラブ

初版本が出たのは10年前だが、今月映画化されたことで、再びネット上で注目されている恋愛小説。当ブログでも取り上げたので、詳細はこちらを参照して欲しい。ネット上での評価は「オンナは怖い」ということ。ヒロインの悪女っぷりを非難する意見が圧倒的多数だが、なぜ彼女がこういう女になったのかを指摘する読者はほとんどいないため、当ブログではあえてヒロイン擁護の記事を載せてみた。付き合っている男があんなDV気質だったら、そりゃオンナだって他の男に走るわ。それなのに、その原因を作った男には「自分が悪い」という感覚がないのだから、本当に腹が立つ。でもこういう男って、悠々と人生を送るんだよな。====

3.オシムの言葉

ジェフ市原(現:ジェフ千葉市原)の監督として、日本サッカー界に旋風を巻き起こし、その功績が認められて2006年にサッカー日本代表監督に就任したイビチャ・オシムの半生を記したルポルタージュ。彼の一見穏やかだが、ずばりと本質を突く皮肉な言い回しは、彼が体験してきたことが影響している。旧ユーゴスラビア代表での、選手起用における様々な圧力をはねつけるには、相当強靱な精神力が必要だったはず。有形無形の圧力をものともせず、彼は代表の勝利のために全力を尽くす。凄惨極まりない内乱下での状況を生き抜いたのは、ただただ運がよかっただけとしか言い様がない。多種多様な民族が曲がりなりにもうまくいっていたい制度を壊した独裁者を、私は心の底から憎む。体調不良のために日本代表監督を退任せざるを得なかったが、もし彼がこのまま監督をしていたら、サッカー日本代表の行方は違ったものになっていたはずだ。なお、この本は改訂版が出る前のものである。

4.ビブリア古書堂の事件手帳ー栞子さんと奇妙な客人たち

テレビドラマになるほど話題になった作品であり、気になりつつもなかなか読む機会がなかった。一読して「面白い」と思った。何よりも、古本屋業界の内部事情がわかって興味深かった。部外者から見れば「たかが古本一冊」であっても、その本には前の持ち主の人生が詰まっている。前の所有者は、どんな思いを残してこの本を手放したのかを考えながら読み進めるのも一興。それにしても、ヒロインはあんな性格で、よく接客業ができるものだと感心してしまう。そして、コレクターの狂気ほど怖ろしいものはない。部外者からしたら「たかが一冊」なのだろうが、ファンからすれば「されど一冊」。とはいえ、コレクションのために他人を傷つける神経は、私には理解不能である。

5.ニセコイ(17)

「やくざの息子と米国マフィアの娘が、お互いの組織のために3年間『偽の恋人』を演じる』という、まるで戦国時代の政略結婚みたいな設定にドン引きし、アニメ二期の第1回を見なかった本作品。それでも「食わず嫌いはよくない」と思って第2回を見たら…これが面白いのなんのって。同時期にBS放送局「アニメシアターX(AT-X)」で第一期が放映されていたので、こちらもあわせて視聴してみたら…うん、いいわこの世界。第一印象が最悪で、お互い「3年間限定、それもこれも実家のため」と割り切っていたのに、時間の経過とともにヒロインは本気で相手に恋心を抱くようになる。最新刊は修学旅行で、ヒロインがこっそりと「彼氏」のところにお忍びで出かけていく。その表情がかわいい。年頃の女性は、恋をすれば変わるというのは本当なのだな。 さてこの二人の恋は、いったいどう変化するのでしょうか?

6.哲学散歩

メルロ=ポンティの哲学を平易な翻訳で日本に紹介するとともに、ハイデガーフッサールの思想研究で知られる哲学者・木田元の最後の著作である。古代ギリシャから現代哲学までの通史を、エッセイという形式で綴られたこの本である。著者の文体からは、穏やかな性格と豊かな教養、そして多彩な視点が垣間見える。自分もこのような文体をものにしてみたいなと思っているが、かなり頭がよくないと難しいだろうな。哲学と自然科学及び宗教学は密接な関係があるが、この本に収録された話で一番印象に残ったのは、自説を曲げなかったばかりに宗教裁判にかけられ、10年近くも牢獄に入れられたあげく、火刑台で火あぶりにされたイタリアの哲学者ジョルダノ・ブルーノの話。教会から見たら異端と思われる学説を片っ端から弾圧する17世紀という世界は、政権与党の勉強会で「(自分たちの意見に反対する)マスコミを懲らしめなければ」と発言する議員が跋扈する現代と重なっているように思えるのは私だけか?

7.数学ガールの秘密ノート 式とグラフ

大ベストセラーシリーズ「数学ガール」の入門編というべきシリーズの第1巻。「数学ガール」で扱っている内容はかなり高度なものであり、理解するにはよほど数学が好きであるか、論理的な思考能力が必要である。実際私も同シリーズの第1巻を読んでみたのだが、そこに記載されている数式は高度すぎて理解できず、後半は数式をほとんど流し読みし、登場人物の会話を理解することに注力していた(それでも、かなり難しいのだが)。

今巻では高校数学のすべての基礎となる「式とグラフ」の概念を易しく解説している。数学ガール本編と比べて丁寧に解説されているとはいえ、ここで解説されている内容を完全に理解するのには、高校数学の基礎の概念を理解する必要があることに注意して欲しい。「数学で展開される論理的思考とはなんぞや」「登場人物のやりとりを、純粋に楽しみたい」と思っている人以外は、手を出さない方が無難かも知れない。

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格差拡大政策を実施した人間が、何事もなかったかのように「格差問題の弊害」を説く。

まるでマンガである。

ライバル誌「東洋経済」に遅れること2週間、「週刊ダイヤモンド」も2015年2月14日号でピケティ特集を組んだ。東洋経済が、冊子の半分のページ数を割いたのに対し、こちらは30ページ強。最大の目玉は、今をときめくメディア人・池上彰をピケティのインタビュアーに起用したこと。彼は「表立った体制批判(特に警察・官僚機構に対して、彼はほとんど批判めいたことは言わない)はしないが、物事を解りやすく伝える技術は日本一のメディア人(あえて「ジャーナリスト」とは書かない)」と個人的に思っているが、今回も期待に違わぬ働きをしてくれた。

池上はピケティの今回の業績は3つあると指摘する。

・世界各国の膨大なデーターを分析し、「富めるものはますます富み、そうでないものとの格差はますます拡大する」資本主義の問題点を明らかにし、新自由主義者が強調する「トリクルダウン」を明確に否定した。「おかしい!」と思う一般庶民の思いを見事に説明したこと

・「今の経済学は、あまりにも数学的な力が強すぎて、世の中が見えなくなってしまった。だから今こそ経済学を復権させるべきだ」と強調していること

・「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という不等式を明示し、資本によって得られる収益は、働く人の賃金を上回るから、格差が自然に広がっていくという図式を提示したこと

3つめの項目については、普通の経済学者だったら精緻な理論を組み立てようとするが、ピケティは「r>gを論理的には説明できるが、その理由はわからない。私が分析したデータをたたき台にして、みんなで考えてください」というスタンスをとっていることを、池上は「謙虚だ」と賞賛している。

池上とのインタビューで、ピケティは

「現代経済学は、数学を利用してかなり複雑な経済理論を作っているが、それが社会に役に立っていない。マルクスの経済学とは違う」

と、アメリカを中心に流行している新自由主義経済を批判している。またピケティと似たような研究は1970~80年代に行われていたが、すべて手作業だったために作業者は疲労困憊し、完成した本は読み手に苦痛を強いるだけで、喜びを与えることが出来なかったことを明らかにした。インターネットが普及したことで、世界中の研究者がデーターを提供しやすくなり、調査の透明性を高く保てるようになった。データー収集が劇的に楽になったことで、研究者は歴史的な解釈の作業に注力できるようになったのである。====

また彼は、rとgの格差がこれ以上広がりすぎると、富の集中がすすんで格差は拡大する、それは民主的な社会にとって矛盾が生じると訴える。東大での講演において、ピケティは学生に

「親は選べない。格差の問題を解決するのは我々市民であり、(我々は)世の中をよくするために努力し、最善を尽くすべきだ。私の本(21世紀の資本)は、そのために書いた」

と述べた。この本の目的は、知識の民主化にある。民主主義を社会に広めるためには、専門家だけが経済学を独占してはいけない。世界各地で広がる格差拡大と若年層失業率の上昇は、民主主義の不安定の原因になり、放っておくと取り返しのつかない事態になる。インタビューを見る限り、彼は現状にかなりの危機感を持っているようだと言うことが認めれる。

同号では「21世紀の資本」を読んだ11人のインタビュー記事が掲載されている。意見を寄せた全員が何らかの部分で共有でこるところはあるようだが、彼らの中には違和感を感じる意見を開陳している人間もいる。

その代表例が竹中平蔵である。彼が小泉政権でやったことは、心ある人なら重々承知のはずだからここでは書かないが、自分で格差拡大につながる政策を推進しながら、このインタビューで

「世界でグローバル化が進んだことで、絶望的な格差が生じている。30代の格差は深刻で、その要因の一つは、正規社員と非正規社員の格差である」

とイケシャーシャーと語っている。しかも彼は、このインタビューで

「正規社員と非正規社員の格差が広がったのは、競争ではなく制度が生み出したものである、それは一部の大企業の正社員が守られすぎているからだ」

と平然と語るその神経は、常人にはとても理解不能である。彼はこのインタビューの中で「正規も非正規も同一条件にすればいい」と述べているが、現在彼が派遣業界最大手企業「パソナ」の会長を務めているという文脈でこの記事を読む限り、彼が持っているどす暗い野望を感じてしまう。「派遣会社会長」という立場でこんなことを発言するのは、一体どんな狙いがあるのだろうか?竹中は最近、別の会合で労働者を解雇し易くしろと発言したそうだが、解雇条件が緩和すれば、派遣業界が儲かるのは目に見えている。自分の儲けしか考えていない、とんでもない学者である。

大阪大学副学長の大竹文雄氏のコメントにも、違和感を覚えざるを得ない。彼は

「日本の格差は他国よりマシであり、失業率も改善され、労働者にも追い風になっているのに、昨年(2014年)末の総選挙で、格差問題が問題になっているのはどうなんでしょう」

と、何かすっとぼけたことを言っている。あの、あんた経済学者ですよね?10年前に比べて、上位1%はさほど増えていないのは確かだが、これが「上位10%」になると、10年前とは比較にならないほど増えているのですよ。そのことを無視して「日本の格差は、外国よりはマシ」と言われても、説得力がありませんってば。

「『大金持ちほど国家に依存しながら税金を納めず、正直者がバカを見る。そんな状態を許していると、資本主義が最終的に自分の足下を掘り崩す』と言うことを、ピケティはやんわりと指摘したかったのではないか」

とコメントする池田信夫氏(アゴラ研究所代表取締役)も、彼の展開する論証は荒っぽい展開が目立つと言うが、その根拠を指摘した部分は皆無(ひょっとしたら、会員サイトでは読めるのかも知れないが)。それだったら、ピケティの解説本なんか書かなければいいのに、と思ってしまう。派遣会社ザ・アール会長奥谷禮子氏のコメントは、ここで取り上げるに値しないほどたちが悪く、かつ方向性が全く見当違いである。水野和夫・日本大学教授は、この本はフランス革命後、身分や性別をなくしたから、誰しもが能力に応じて資産や所得が決まる社会が来たと思っていたが、それは欺瞞であった言うことを証明したことを評価し、橘木俊詔・京都女子大学客員教授、森永卓郎・獨協大学教授らは、格差拡大や貧困問題に焦点を当てたことを評価した。飯田泰之・明治大学准教授は、今後日本は「資産を持つ中流階層の6割と、それを持たない4割の格差は今後広がる」ことを危惧し、萱野稔人・津田塾大学教授は、この先も低成長時代は続くと予測し、機会平等のための政策が必要になってくると訴える。「日刊ゲンダイ」の連載で、ピケティの考え方に懐疑的な視線を向けていた作家・佐藤優だが、21世紀の資本については、主張の展開は誠実だと評価している。ただ彼は、ピケティの唱える資産課税政策については、国家と富裕層は持ちつ持たれつの関係であり、政府はそこに手を突っ込めないだろう。もし突っ込めるように国家権力を強化したら、権力が暴走し、かつての国家資本主義・国家社会主義に近い、窮屈な世の中になると警告する。この思想は池田信夫と正反対で面白い。

Newsweekも2015年2月24日号でピケティを特集しているが、こちらの扱いは実に冷ややかだ。何より、ピケティがアメリカの経済学界に失望した理由について、一言も触れないどころか、ピケティの理論に反論するMITの学生を紹介する始末である。仲正昌樹・金沢大学教授はサンデルネグリ、自分の専門研究分野であるハンナ・アーレントみたいに、一過性のブームに終わるだろうと言っているが、一般人の「学説ブーム」が一時期だけなのは、毎度毎度のことであることは、ご本人だって解っているはずである。文系のみならず、理系の「超伝導ブーム」をはじめ、日本人がノーベル賞を受賞する度に、それまで受賞者の実績に知らんふりしているメディア(特に「大マスコミ」と言われる人々)が大騒ぎするのを、苦々しい思いで見ている人たちが世間には沢山いるんですよ。

アーレントは著書の中で「自分の意思を持たず、命令に唯々諾々と従っている人が一番がちが悪い」と告発し、ネグリは世界のグローバリぜーション化とともに出現した新たな脅威について訴え、サンデルは、我々に異なる人たちとの対話の重要性を教えてくれた。そしてピケティは、我々に民主主義の重要さと、フランス革命の理想が、未だに達成できていないことを示して見せた。学説の一過性ブーム、大いに結構。我々が彼らの言いたいことを正確に捉えれば、未来は明るいと思う。

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経済学の理論書これだけ注目を浴びるのは、マルクスの資本論以来なのではないか?

著者 :
東洋経済新報社
発売日 : 2015-01-26

世界中で巻き起こっている「ピケティ旋風」が止まらない。

去年(2014年)に書かれた「21世紀の資本」は900ページ(英語版、日本語版は728ページ)を超える大著にもかかわらず、世界中で100万部以上(日本では7版13万部)が売れる大ベストセラーになった。お堅い学術書がこれだけ売れるのは異例の事態で、世界中のメディアは、彼の一挙手一投足に注目している。「彼は経済学界のロックスターだ」と書くメディアもあるのは、公式会見でもネクタイを着けない彼の服装によるものである。

トマ・ピケティは1971年フランス生まれ、両親は1968年のパリ5月革命に関わった、市民運動の闘士。22歳で経済学博士号を取得した直後、マサチューセッツ工科大学(MIT)准教授に就任。だがアメリカの経済学界の雰囲気になじめず、わずか2年でフランスに舞い戻る。帰国後は、フランス国内で「一流」と言われる学校で教鞭を執る。2000年、フランス最優秀若手経済学者賞を受賞。同年社会科学高等研究院代表研究者に就任。2006年パリ経済学校の創立に参画、初代代表に就任するも、翌年からは既知の政治家が大統領選に出馬し、その人物を応援することを理由に代表の座を離れた。現在は、同校教授として教鞭を執っている。

この書籍は大著であるが故、購入者は海外・日本ともいわゆる「知識階級」と言われる人が多い。扱っているテーマがテーマだから、個人的には日本語版は2~3冊の分冊にして、貧乏人にも変えるようにするなどの配慮が欲しかった。700ページ超で税込みで6,000円を超える値段は、貧乏人には購入を躊躇してしまう値段である。

「理解するのが難しい「読む時間がない」と嘆くサラリーマンに配慮して、各雑誌メディアはこぞって「ピケティ特集」を組み、「21世紀の資本」での彼の主張をコンパクトに紹介している。私自身、3種のメディア記事を読んだので、その中身を簡単に書いてみたい。

石橋湛山以来のリベラル寄りのスタンスをとる「週刊東洋経済」は、2015年1月31日号で、全118ページ中50ページをピケティの特集に費やしている。特集記事冒頭の6ページで、彼の生い立ち、研究活動、政治スタンス、アベノミクスの評価、話題を呼んだ発言を紹介している。

先述の通り、彼は22歳の若さでMITの准教授になるが、わずか2年で帰国した。アメリカの経済学者が現実世界をあまり知らないまま、数学的な純粋理論ばかりに没頭していること、彼らが他分野の社会学者を見下していることに我慢ならなかったからだ。皆様ご存じの通り、アメリカの経済学者は新自由主義を信奉する人間が多いが、ピケティはそれについて

「自分たちがトップ所得層におり、彼らの多くはアメリカ経済はかなりうまく機能しており、とりわけそれは才能と実力に正しく報いているからだと信じている」(同号p50)

と、辛らつな言葉を投げつけている。====

東洋経済の特集では、「21世紀の資本」の内容とそこで展開される理論の要点をわかりやすく紹介しており、さらにこれまでの経済学史の流れと意見対立が起きる理由、代表的な反対意見を掲載している。

元米連邦準備制度理事会議長 アラン・グリーンスパン
「(彼のやり方は)資本主義のやり方ではない」
ジョージメイソン大学教授 タイラー・コーエン
「最も成功している市民への法的・政治的・制度的経緯と支援がなければ、社会はうまく機能しない」」
ニューヨーク市立大学教授 デヴィッド・ハーウェイ
「『21世紀の資本』は、資本について全く何も語っていない」
MIT教授 ダロン・アセモグル
「格差を考える上で、最も重要な制度的要因を無視している」
スタンフォード大学教授 チャールズ・I・ジョーンズ
「ピケティの主張は、推論の域を出ていない」

というのが主だった反対意見だが、個人的にはどれも賛同できない意見ばかりである。何よりも彼らの反論は、ピケティが感じた

「現実世界をあまり知らないまま、数学的な純粋理論ばかりに没頭している」

ことについて、何も答えていない。

なぜこれほどまでに、経済学は深刻な対立を引き起こすのか?このことについて、早稲田大学の竹田青嗣教授は

「現代の経済学は、資本主義が進んだ道を後付けすることしかしておらず、どうしたら調和的に成長できるのかの答えは全く出ていない。高度な数学・統計学を駆使して自然科学になぞらえることが、経済学には出来ていない。実証主義を標榜しているのに、実際には2~3の学派が常に対立している上、特定の政治的勢力や回想の利害を各派が代弁しているから、自然科学のように普遍的な理論に統合されることがない。これでは、一般人は何を信じたらいいのかわからない。専門家の対立は、アンチ○○になってしまっているのが現状だ」(同号p66〜p67インタビュー要旨)

と述べ、その解決法については

「価値観の差異を認め、普遍的ルール作りへの歩み寄りを」

と提案しているが、これはNGOに所属している人たちがl、長年言っていることと同じである。だが、いざやろうとするとなかなか難しい。「多文化共生」を唱え訴えているNGOの人間も、自分たちの唱える意見・自分たちと違う階層及び学歴の人間の意見を聞いたり、親しく交流しようという姿勢が見えないのが現実だ。年代が若ければ若いほど、その傾向は強くなる。いくら相手の言い分が正しいと思っていても、ある問題で団体同士の根深い確執があると「相容れない」と言い張る可能性が大だ。お互いが自分の言うことが正しいと思っているから、絶対自説を譲らないからたちが悪い。

「こんなに面白い!最先端経済学」というタイトルがついた後半の特集では、8つの視点から経済学の見方を紹介している。印象に残ったのは、一頃NGOの世界で注目を集めた「マイクロファイナンス」の項目である。2002年にバングラデシュで設立された、世界最初のマイクロファイナンス機関である「グラミン銀行」の知名度が広がると「貧困撲滅の切り札になる」と言われたが、返済方式が借り手側に厳しいこと、短期的に収益が見込める事業以外は、利用者にとってメリットが見込めないこと、グループ内の連帯責任と相互監視の圧力が強いことなどが原因で、当初の思惑ほど貧困撲滅には効果がないのが現実である。もっとも、マイクロクレジット側でも個人単位での融資制度実施、返済期間やその方式などに改良を加えて利用しやすくしてるそうなので、新制度導入でどれだけ効果があるのか見守りたいところである。

さて、次回は「週刊ダイヤモンド」「Newsweek」の記事の感想を取り上げてみる。

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