2015年7月の読書リスト

国民及び野党の猛烈な反対を押し切り、安倍政権が推し進める「安保法案(またの名を「戦争法案)」は、与党の数の力の前にあっけなく成立した。おそらく安倍政権は、衆議院で一度可決してしまったら、後は参議院での審議が滞っても「60日ルール」を使って、衆議院で再可決すれればこの法案は成立する。その前に、国民は諦めてしまうだろう。おそらく政権中枢はそう読んでいたはずだ。

ところが、今度の国民の抵抗は本当にしぶとい。学生団体だけではなく、学界、映画界、NGO、はては自衛隊OBまで、ありとあらゆる分野から「この法案は違憲だから即時廃案せよという声が上がり、その声は止まる気配がない。きのう(2015年7月31日)に都内で開催された安保法案反対集会には、4,000人以上が来場したそうである。新聞・テレビなど在京メディアは、国会前のデモをほとんど伝えないが、地方では毎日のように安保法案に反対するデモ・集会の様子を報道しているそうだ。参加者の怒りは冷酷非道な政権、頼りない野党、政権べったりで本来の役目を果たしていないメディアにも向けられている。おそらく「3.11」以降の反原発デモのように、時間が経ったら国民の怒りも沈静化するだろうと、政権側は思っているのだろう。だがそうは問屋が卸すかな?希代の愚策「アベノミクス」のおかげで地方経済はメタメタ、格差問題も広がる一方の生活に、有権者の怒りはついに爆発した。大メディアが示す「内閣支持率」とやらの数字も、とうとう「不支持」が「支持」を上回った。この雰囲気は、第一次安倍内閣の末期に似てきた。

さて、今月の読んだ本の紹介。

今月もバラエティに富んでいるなあ。

アートを書く!クリティカル文章術 (Next Creator Book)アートを書く!クリティカル文章術 (Next Creator Book)

読了日:7月3日 著者:杉原賢彦
最後の1分最後の1分

読了日:7月16日 著者:エレナー・アップデール
名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件 (朝日新書)名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件 (朝日新書)

読了日:7月20日 著者:おおたとしまさ
ちはやふる(26) (BE LOVE KC)ちはやふる(26) (BE LOVE KC)

読了日:7月24日 著者:末次由紀
ちはやふる(27) (BE LOVE KC)ちはやふる(27) (BE LOVE KC)

読了日:7月24日 著者:末次由紀
想像ラジオ (河出文庫)想像ラジオ (河出文庫)

読了日:7月27日 著者:いとうせいこう

アートを書く!クリティカル文章術

音楽・美術・映画の評論を書く時のポイントを、簡潔に紹介した本。各分野の課題文の添削が掲載されているので、どういうとこに気をつけて文章を書けばいいかがわかる。この本を一言でまとめれば、これらの分野の評論を書くには、かなり高度な知識が必要だということ。書いていることは理解できるのだが、いざまとめようとすると非常に難しい。特に映画の評論を書くときは、撮影技法や映画の理論を理解していないと、納得できるものはかけない。音楽の評論を書くときは、やっぱり楽譜が読めた方がいいのかな?美術の場合は、論旨が普通の評論とがいっているのが当たり前らしい。うーん、これとても他人を納得させられる文章とはいえないな。====

ちはやふる26・27

団体戦日本一という目標を達成したのに、いつの間にか溝が深まっていた千早と太一。新との試合に敗れ意気消沈する太一を励まそうと、千早は彼の誕生日に「太一杯」を開催する。それから数日後、太一は千早に告白するが、この二人はいったいどうなってしまうのだろうか?「かるたを嫌いになったら、仲間とのつながりがなくなる」ことを恐れる太一。太一とかるた部、そしてかるた部の仲間たちを心配しつつ受験生モードに突入した千早。そんなある日、幼馴染みの新からメールが届く。その文面から、心が千々に乱れる千早…。個人的には、千早と太一が別れるのはありだと思う。太一がカルタ部に入ったのだって、千早と一緒になっていたいという気持ちからだったからね。とはいえ、このまま二人が別れたままで話が終わってしまうのは、あまりにも後味が悪すぎる。二人の関係は、そして瑞沢高校かるた部はいったいどうなる?

最後の1分

イギリスのとある年で起こった、大規模な爆発事件(もちろんフィクション)を題材に、たまたま現場に居合わせた犠牲者・重傷者・奇跡的に難を逃れた人たちが、事件1分発生前に感じたこと・考えたこと・とった行動を淡々と綴っていくサスペンス。彼らの思考と行動は「1秒」毎に区切って明記されるが、1秒で実際にこれだけの思考・行動ができるのかな?と思われるところも多々あるのは事実。巻末に犠牲者リストがでているので、本文を読みながら「こいつは最終的に助かったのかどうか?」を気にしながら読み進めるのも一つの方法。レビューサイトにもあるけど、この作品を映像化するのは、かなり特殊な技法と場面転換の技法を多用することになるだろう。不満なのは、この爆発事件の犯人と動機が明らかにされないことだが。

名門校とは何か?

「偏差値の高い学校は、生徒に受験勉強させてばかりいるのでは?」というのが、世間一般の進学校に対するイメージだろう。だが実際は「名門校」ほどリベラルアーツ(教養教育)に力を入れているのである。ミッション系や武蔵高校に限らず、毎年東大・京大に沢山の合格者を送り込んでいる開成・灘・筑波大学付属も、リベラルアーツに力を入れているのは意外だった。教養教育とは「生きる力」を身につけること。安倍内閣発足以降、あちこちで「教育改革」を叫ぶ声が上がっているが、筆者はこの時勢に対し「日本の名門校が培ってきた伝統を破壊することは逆効果だ」と述べている。これは筆者自身、麻布で教育を受けた影響があるのだと思っている。

想像ラジオ

東日本大震災をモチーフにした小説。大地震発生後の大津波に攫われ、命を落とした男性。彼は死者と生存者を繋ぐため、あの世で「想像ラジオ」のDJをはじめる。独特の軽妙なトークは、まるで本物のラジオのようである。家族は生きてるか?友だちや知り合いの消息は?部下はどこに消えた?彼らの行方を追い求める人たちは、情報を求めて彼にメールを送る。それに丁寧に対応する彼の様子が何とも切ない。刊行と同時に話題になり、昨年(2014年)の芥川賞候補作にもなった作品だが、読んでいてちっとも心の中に響かなかないのが不思議だ。テーマは時宜を得ており、アイディアも秀逸だとは思うのだが…。このモヤモヤした違和感はどこから来るのだろう?書評サイトの評価も、真っ二つに分かれる。これは人を選ぶ作品である。

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冷蔵庫のうえの人生

冷蔵庫のうえの人生

アリス・カイパース著 八木 明子(訳)

文藝春秋

2007年12月10日初版発行

240P

1,200円(税抜)

産婦人科の医師であり、シングルマザーとして16歳の娘を育てる母親。

母親を慕う、甘えん坊な16歳の娘。

この小説は、この2人が日々の生活を、冷蔵庫に貼り付けてあるメモ用紙でやり取りする様子を綴った作品である。

そんなある日、母は娘に、自分がガンであるかもしれないと告白する。

容態を心配する娘に、「もしものことがあるかもしれない」と告白する母。

母親を困らせる言動と行動をとりながらも、彼女の回復を一心に願う娘。

しかし、そんな娘の願いもむなしく、母の病状は悪化していく。

別れが近いことを覚悟した娘は、日一日と大人の行動をとるようになる。

心身とも成長する娘を見て、心の底から喜ぶ母。

娘は奇跡を信じて、冷蔵庫のメモにこんなメッセージを託す。

「お母さんのようなすばらしいお母さんはほかにいません。愛しています」と。

だが別れのときは、あっという間にやってきて…………………………………………………………………

「母と娘のメモのやり取りだけでできた小説」。

この本は、そんな一風替わった売り込み文句に興味を持った編集者の目にとまり、日本でも出版されることになった。

散文のような文体は、作者の本業が詩人だから。だからこの作品は、小説というより、2人芝居の戯曲を読んでいる感じを受ける。

戯曲を読むためには、場面と場面の隙間を演者自らが補う必要がある。

肝心なことは、何も書かれていない。

だからこの本を読むときは、行と行で起こったかもしれない出来事を、読者自身で想像しなければいけない。

この本を読む難しさと楽しさは、そこにあるのだ。娘が重病の母に散々悪態をつき、わがままを言い、母を困らせるのは、母を愛する気持ちの裏返しでもある。永遠の別れを受け入れたくない。もっと母に甘えたい。ずっとずっとそばにいたい。

しかしどんなに駄々をこねようとも、母との別れが近いという事実は動かせない。

やがてやってくる「その日」を受け入れる覚悟をした娘は、人を思いやることとは何なのかを理解していく。母の死から1年後、彼女は自立を宣言する。

「私のことはどうか心配しないでください」というメッセージを、天国の母に託して。====

「冷蔵庫の扉の上のメモでやり取りする」という発想は、作者自身が、恋人とのメッセージ交換の手段としてやっていたことから思いついた。

母ががんで死ぬという設定は、親しい友人の母親が、がんで亡くなったことに基づいている。

自分の家族にがん患者がいる人なら、娘の気持ちがよくわかるだろう。

私にとってもこの状況は、人事とは思えない。

自分だったらこうするのに、ああいうのにと思いながら、実際の行動に移せないもどかしさ。

こういう気持ちは、身内にがん患者がいる人なら、きっとわかるはず。

以前読んだ小説の中に「厳しい現実は、人を強くする」というセリフがあった。

母の死という現実を受け入れられず、毎日泣いて過ごしていた娘。その気持ちは「ほかの女性たちは今も生き続けているのに、どうしてお母さんはあんなにあっけなく死んでしまったの?」というセリフに込められている。

だがいくら泣いてもわめいても、愛する母は帰ってこない。そばにいない。

時がたつにつれて、娘は徐々に「強さ」を身につけ、母から自立していく。

本当に強い人は、勇ましいことは言わない。

ただ黙って、ありのままの現実を受け入れ、自立する。

娘・クレアの最後のメッセージを見て、そんな印象を受けたのだった。

クレアの未来に幸多からんことを願う。

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小説「新宿鮫」「アルバイト探偵シリーズ」など、日本を代表するハードボイルド&探偵小説作家である大沢在昌が、30年以上のキャリアで培ったテクニックを惜しげもなく明かし、業界を震撼させた「小説講座」を書籍にまとめたものである。

今でこそ、押しも押されレぬ「ベストセラー作家」として認知されている彼だが、デビューから10年あまりは出版した作品が初版止まりだったため、関係者から「永久初版作家」と揶揄されていたが、29冊目に出した「新宿鮫」がヒットしたことで、自分は業界で大きな顔ができるようになったそうだ。過去出版した28冊が初版止まりでも、文壇から「退場」を宣告されなかったのは、万に一つの可能性をかけて見守ってくれる編集者のおかげだが、今の出版業界はそんなことはとてもできる状態ではない、と大沢はいう。売れない作家は注文が来なくなり、辞めたくないのに「廃業」せざるを得ない作家が年毎に増えているのが現状である。

この本ができたきっかけは、小説雑誌「小説野生時代」の編集部関係者から、テクニックを伝授して欲しいと頼まれたからである。

講座を開くに当たり、大沢は3つの条件を出した。

・受講生は、プロの作家になりたい人限定

・受講料は無料

・毎回出す課題を消化できなかった受講生は、その時点で失格とする

「プロの作家になりたい人」を受講生にしているのだから、「ちょっと文章がうまい程度」の人に来られても困る。ある程度の力がある(新人賞に応募し、ある程度の選考に残った経験があるレベル)人を対象にしているため、希望者に作品を提出してもらい、そこから受講生を選ぶことにした。最終的に64人が応募し、年齢は20代~40代、様々なバックグラウンドを持つ12名が受講生として、1年間にわたり本講座を受講できることになった。

タイトルが「売れる作家の全技術」であり、作家志望者以外は読んでも意味がないのではないか?と思う人がかなりおられるかもしれないが、逆の立場、つまり作家は何を考えているのか?という視点でこの本を読めば、ここで語られていることは「文藝」のみならず、漫画・映画・舞台・戯曲(脚本)にもその考え方を応用できるのではないか?と思う。もちろん、この本で書かれているポイントは、今後読者が作品を読み解く上で、有益なヒントを提供してくれるだろう。====

本書で著者が繰り返し述べているのは、とにかく「本をたくさん読め」ということである。初版だけで大量の部数を発行する作家はほんの一握りである、彼らの元にはたくさんの献本が送られてくるが、そのほとんどは読まれずに終わる。それを差し引いても、「プロの作家」といわれている人たちは、一般人の何倍もの本を読んでいる、と著者は説く。驚くべきことに、本講座の受講生の中に、読書経験が少ない方も見受けられたという。大沢はことあるごとに

「浴びるように本を読んで、どんどん引き出しを増やして欲しい。引き出しが少ない人間の文章はつまらない」

と語る。「万年初版作家」と揶揄された時代の大沢は、手を変え品を変え、様々なスタイルで作品を発表したがなかなか結果につながらず、そのたびに読書や映画を見て、アイディアを蓄えていった。いい作品を書くには、これまでの読書量がものをいうと大沢は語る。

受講生の中には、ミステリー(エンターティンメント、ハードボイルド)作家になりたいという受講生がいたが、大沢に寄れば、ミステリーを書くためには膨大な基礎知識が必要だから、最低1,000冊以上読まないといけないそうだ。古今東西の名作を読んでいることは当然、推理小説を書く場合はトリックや警察体制の知識が必要不可欠だからだ。大沢がこの講座で例に挙げた「オリエント急行殺人事件」(アガサ・クリスティー)は読者があっと驚く結末を迎えるが、これを知らずにまったく偶然同じトリックの小説を書いて新人賞に応募したら、その作品は間違いなくアウトである。「読んでいないからパクリじゃない」と主張しても、その作品を読んでないということがわかった時点でおしまいなのだ。「ミステリー作家になりたい」という人は、そういう事情を知っておく必要がある。

大沢に言わせれば、作家になるというのは

「コップの中に(『水』という名の)『読書量』がどんどんたまっていって、最後に溢れ出す。それが書きたいという情熱につながる」

のだそうだ。いろんな作家のいろんな作品を読むことによって、経験したことのないことに対する知識や、小説に対する勘所が身についてくる。だから、たくさん本を読め!大沢は高校2年生の時、年間で1,000冊以上を読破した。「読書量が多い」=「作品の質の向上」につながるわけではないが、読書量を重ねることによって、人物造形、ストーリー、サプライズが身につくのだそうだ。この考えは、将来漫画家や映画制作者になりたいと思っている読者にも適用できるのではないか?

大沢が紹介する技術は全部で8つの分野に分かれるが、共通するのはいずれも「豊富な読書量」がないと、これらの技術は生かせないということ。「プロの小説家」は、この本で取り上げられていた技術を易々と使いこなしていくが、「プロ」と単なる「愛好家」の境界線は、これらの技術を自分の思い通りに駆使できるかどうか、そして話の筋立て(プロット)を組み立てていく上での引き出しの多さ(文章表現面も含めて)ということだ。そして、小説を書く上に置いて欠かせないのは人間観察であり、それがうまくできないといくら読書量が豊富でも、人物造形がきちんとできないと、それだけで小説の魅力が半減する。読書量・文章表現力・観察力が高いレベルで備わってこそ、ベストセラー作家になれるのだが、実際にこの分野で成功できるのはほんの一握りである、というのが現実である。

大沢は講座の最後で、デビュー後の身の処し方、文壇関係者・出版社関係者らとの付き合いについてアドバイスしているが、そこでテレビに安易に出てはいけないと発言しているのが興味深い。テレビに出ることで作家の神秘性がなくなることに加え、テレビは出演者にメリットがなくなると、いとも簡単に捨ててしまうからだ。代わりの人間はいくらでもいる、売れる作品を書けないお前が悪い、そういうテレビマンの冷酷な論理を熟知しているから言える言葉だろう。

また、デビューして人気作家になってからも、むやみやたらと「先生」といわせないほうがいいと受講生を戒めているのは好感が持てる。受講生の最大の目的は、プロの作家としてデビューすることであるが、今の出版事情を鑑みれば、担当編集者が真剣に対応してくれるのは、5作目までが限度。それまでにある程度の結果を残されなければ、あっという間に干される、厳しい世界なのだ。

この本では第一部ではテーマ別にそって、第二部では課題別に、受講生が課題作品を提出し、大沢が提出された作品の問題点を5つの分野(ストーリー・キャラクター・会話・文章・アイディア&つかみ)から指摘するのだが、課題作の全文が紹介されているわけはないので、読者がどこまで理解できるか未知数。ページ数の都合があるのは認めるが、ここはある程度大沢が指摘した問題点の前後の文章を紹介したほうが良かったのではないか?別の書評サイトでは

「講演中の大沢の発言は上から目線だ」

という意見が掲載されていたが、彼の発言をどう取るかは読者によって異なるだろう。

この講座を受けた受講生が、当人の希望通り「プロの作家」としてデビューし「ベストセラー作家」になれるとは限らない。

だがこの本は

「プロの作家としてデビューし、その後も順調に作家生活を続けるためには何が必要か?」

「普段作家は何を考え、キャラクターやストーリーはどう作ればいいのか」

という視点で読めば、また違った印象を持てるだろうと思う。

当講座の締めくくりの言葉として、大沢が受講生に送った言葉を紹介したい。

「自分を苦しめ、追い詰めて、これ以上ないと思った、さらにその先があると信じて書くこと。一〇〇パーセントの力を出し切って書けば、次は一二〇パーセントのものが書けるし、限界ぎりぎりまで書いた人にしか次のドアを開けることはできません。それを超えた人間だけがプロの世界で生き残っているんです」

(P284より引用)

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