「資本主義と自由 」

この本は、世界中に貧富の差を拡大させる原因を作った「グローバリズム」の理論的支柱であり、ブッシュ政権下で多大なる影響力を持った「ゼネコン」一派の師匠的存在である、ミルトン・フリードマンの代表作である。この本は今から半世紀以上前に書かれた(1962年刊行)が、驚くべきことに彼は、その頃から「もっと自由を!」と叫び続けていたのである。

本書について記述する前に、フリードマンについて知らない人が多いようなので、この機会に調べてみた。

筆者は1912年、ユダヤ系移民の子としてニューヨークで生まれる。飛び級により15歳で高校を卒業後、コロンビア大学など3つの大学で学ぶ。シカゴ大学では経済学を専攻し、同大学を卒業後に進学したコロンビア大学で博士号を取得した後、アメリカ連邦政府とコロンビア大学に勤務する。その後母校シカゴ大学で教鞭をとり、後進の育成に尽力した。ニクソン大統領政権が発足すると、大統領経済諮問委員会のメンバーに就任する。同委員会在籍時代の業績として、1969年に変動相場制提案があげられる。このほかにも世界各国で政策助言活動を行い、1982年から1986年まで日本銀行の顧問を務める。その功績をたたえられ、1986年に日本政府(当時の総理大臣は中曽根康弘)により、勲一等瑞宝章(現:瑞宝大綬章)を授与された。

1976年、消費分析・金融史・金融理論の分野における業績と安定化政策の複雑性の実証をしたとして、フリードマンはノーベル経済学賞を受賞した。しかし本人は

「私は、ノーベル賞がよいことであるのかどうかについて、大きな疑問を抱いている。ただし、そのようなノーベル経済学賞についての疑問は、ノーベル物理学賞についても同じく当てはまる」

と語るなど、ノーベル賞について懐疑的な意見をしている。====彼は世界各国で政策提言活動をしたが、その中にチリがあった。当時のチリの政権は、国民に強権的な政策を行っていたピノチェト将軍が率いていた。そのため、彼は同政権と密接な関係を持っていたのではないかと、各方面から疑われた。経済学に限らず著名な学者は全員、彼の受賞に異を唱えた。彼の受賞に異を唱えたのは、一般市民も同様だった。授賞式が行われたスゥエーデンでは彼の受賞に抗議するため、数千人規模のデモ行進が行われた。しかしフリードマン本人は、チリ政府との関わりとはないと主張した。ストックホルムのデモについても

「ナチズムの匂いが漂っており、鼻が腐りそうだ。言論の自由において、都合の悪い発言を抑え込むようなやり方は許されない」

と発言し、デモ行進を非難した。1988年、アメリカ国家科学賞と大統領自由勲章を授与された。2006年11月死去、享年94歳。

本書は皆様ご存じの通り、彼の唱える「新自由主義」理論をまとめた一冊である。

「新自由主義」とは、一言で言えば「市場のことは市場に聞け」、つまり私に言わせれば「市場性善説」といっていいだろう。この本は徹頭徹尾 「市場に生き残れるものはみな良い物である」

という考え方で一貫している。彼に言わせれば、ありとあらゆる規制は「市場の邪魔」であり、市場を通過したものは未来永劫まで残る、ということである。市場に任せれば世界は幸福になる、戦争もなくなる、貧困問題もなくなる。だから、人々は「市場」という名の「神様」にハイハイと従っていれば、みな幸せになれると熱心に説法する「市場教」開祖様の姿がここにある。彼を支持する人間によれば、経済学の世界では「市場は民間経済で作ることが前提で、政府はそれを是正する立場にある。だから国営を主張するのであれば、政府が

「市場の失敗を論証しなければならない」

のだそうだ。

へぇ、そうですかい?「民間で採算が取れない分野は政府がやらなければならない」と、高校の「現代社会」の教科書・参考書には書いてあるはずですが。「民間企業」は、お金にならないことには手を出さない。採算の取れない事業に手を出して赤字決算になったら、普通の企業は経営陣が変わるし、下手をすれば法律で処罰される。これは中学生でもわかることだ。つまりフリードマンと彼を支持する連中は

「金にならないことには手を出してはいけな い」

といっているに等しい。

小泉内閣が推進した、一連の「構造改革」は、彼の理論を下敷きにしている。その結果、日本はどうなったか?ありとあらゆる分野で不正が横行し、エゴイズムが跋扈し、貧富の差が拡大した。「金儲け」のためなら平気でウソをつく輩が続々と誕生し、結果日本国内でまことしやかに語られてきた「安全神話」は崩壊した。崩壊したのは「安全」だけではない。未来も、雇用も、人々の「心」の安定も、社会保障も、そして年金も。

貧富の拡大は人心の荒廃を生み、治安は悪化し、精神状態に異常をきたす人も増えた。金持ちは、不幸な立場に立たされている人たちを慮るどころか、逆に「自己責任」だの「できない人間が悪い」という言葉(というより「フレーズ」に近い)で、彼らを突き放す。お上が「国民」という従順な羊にかような概念を吹き込んだ結果、本来ブルジョワ階級が持つべき「高貴なる者の義務」という精神は、きれいさっぱり消えてしまった。近年日本で頻発しているツアーバスの事故だって、常軌を逸した「規制緩和」がなければ、本来なら起こらなかったであろう。

2007年から2008年にかけて、アメリカで発生した「サブプライム住宅ローン危機」と「リーマン・ショック」は、フリードマン一派が推進した「新自由主義」のなれの果てだといえるだろう。政府が金融機関に資金を投入すべきか否かを巡り、アメリカの世論は真っ二つになった。議会や民衆は

「ウォール街で何十億も稼ぐ連中のために、われわれの血税を投入するな」

と絶叫したのに対し、「ウォール街」で働く人たちは

「このままでは国全体が立ち行かなくなるから助けてほしい」

と哀願した。結果として政府から金融業界に多額の資金が投入されたが、それに反発する人たちはウォール街で

「我々は99%だ!」

と絶叫しながらでも更新する光景を、覚えている人も多いだろう。マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「キャピタリズム~マネーは踊る~」は、この騒動を題材にした作品である。

1990年代後半末期から広がった「グローバリゼーション」は、「富める者」と「貧しき者」の格差を広げた。テロや戦争、地球温暖化に代表される環境問題はもちろん、今日(2016年6月24日)決まったイギリスのEU離脱も、突き詰めれば「グローバリゼーション」の悪影響といえるだろう。混乱が深まり、いっこうに光が見えない世界の現状について、彼は天国からどんな思いで見ているのか、今となってはそれを確かめる術はない。だが冒頭に掲げられている巻頭言を見る限り、彼の頭の中には「どうだ、時代が俺に追いついた」という高笑いしか伝わってこない。不幸で苦しんでいる立場の人間を、彼は一顧だにしないだろう。

この機会に、彼の理論を頭に入れておくことをお勧めする。

そして、彼とその信奉者が犯した罪も、この目でしっかりと確かめておくべきだろう。

Facebook にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`yahoo` not found]
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る
Pocket

「2016年1月の読書リスト」

あ・あ・あ……や〜れやれ、という感じである。

TPP推進など、安倍内閣の経済政策の司令塔として動いていた甘利明・内閣府特命担当大臣が、不祥事で大臣辞任に追い込まれた。不祥事の規模からいっても、これまでだったら内閣総辞職レベル、それでなくても衆議院を解散してもおかしくないほどの大スキャンダルなのに、なぜか「内閣支持率」の数字が上がっているというのだから、本当にわけがわからない。国民は、本当にこの政権の政策を支持しているのだろうか?それとも夜ごと安倍と会食している「大メディア」幹部の以降を、現場の記者が忖度した結果なのだろうか?前者だったら、戦後70周年書けて政府が施してきた愚民化政策の成果であり、後者だとしたら、メディアの堕落腐敗ぶりもここまで来たのか、と嘆息せずにいられなくなる。

それでは野党や市民運動サイドはどうなのか…というと「頭にくる」を通り越し、ただただ絶句するのみである。

野党五党(民主・維新の会・生活・共産・社民。もちろん「おおさか維新の会」は野党じゃないからね)は、この夏に行われる参議院選挙で「野党統一候補」を擁立して、安倍政権に対抗するといっている。だがその中心となるべく民主党の姿勢が、いつまでたっても定まらない。参議院選の最大のテーマは、誰がどう見ても「改憲」「反原発」のはずである。ところが新潟では、一度「野党統一候補」を建てるつもりで動いてはずの民主党が、態度を一転して自党から候補を擁立することを決めてしまった。その背景には、原発再稼働に固執する電力労連の意向を受けた「連合」が、脱原発を公約に掲げる候補者の支援を拒否したからだ。心ある一は安倍総理を「KY」というが、本当の「KY」はこいつsらなのでは?と思ってしまう。

そして市民運動の側を見たら、こちらも「何だかな〜_| ̄|○」と、こちらの気持ちが萎えてしまいそうな記事を見てしまった。

こちらの記事では瀬戸内寂聴とSEALDsのメンバーが対談しているが、どう見ても彼らには弱者に寄り添う姿勢が見えてこない。

「自分たちは社会に役に立つ活動をしていまーす!うふふっ」

という雰囲気漂うこの対談、瀬戸内寂聴はしきりに恋愛を話題にしているけれど、貧乏な男性にとっては戦争があろうとなかろうと、恋愛する権利も余裕もないのだよ。彼女たちには、自分たちよりも生活レベルも知性も低い男性のことなんか、おおよそ眼中にないだろう。安倍内閣の支持率がなかなか下がらないのも、低学歴層がインテリ層に対する恨み辛みを、安倍政権が晴らしてくれると思っているからに違いない。彼らにとっては「反戦」よりも「バカにされてきた自分たちの自尊心を回復すること」を優先するのだろう。

さて、先月読んだ本の紹介。

先月はそうでもないが、ここ最近は経済や自然科学、そして哲学に関心がある。来月以降は、これらの分野の本を紹介することが多くなるだろう、と宣言しておく。

生きさせろ! 難民化する若者たち生きさせろ! 難民化する若者たち

読了日:1月1日 著者:雨宮処凛
時空(とき)の旅人―とらえられたスクールバス〈中編〉 (ハルキ文庫)時空(とき)の旅人―とらえられたスクールバス〈中編〉 (ハルキ文庫

読了日:1月3日 著者:眉村卓
戦争に強くなる本 入門・太平洋戦争―どの本を読み、どんな知識を身につけるべきか戦争に強くなる本 入門・太平洋戦争―どの本を読み、どんな知識を身につけるべきか

読了日:1月9日 著者:林信吾
紛争の心理学―融合の炎のワーク (講談社現代新書)紛争の心理学―融合の炎のワーク (講談社現代新書)

読了日:1月13日 著者:アーノルドミンデル
セックスと恋愛の経済学: 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業セックスと恋愛の経済学: 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業

読了日:1月14日 著者:マリナアドシェイド
恋よりブタカン!: 池谷美咲の演劇部日誌 (新潮文庫nex)恋よりブタカン!: 池谷美咲の演劇部日誌 (新潮文庫nex)

読了日:1月20日 著者:青柳碧人
モア・リポートNOW〈3〉からだと性の大百科 (集英社文庫)モア・リポートNOW〈3〉からだと性の大百科 (集英社文庫)

読了日:1月25日 著者:モアリポート班
ちはやふる(30) (BE LOVE KC)ちはやふる(30) (BE LOVE KC)

読了日:1月26日 著者:末次由紀
時空(とき)の旅人―とらえられたスクールバス〈後編〉 (ハルキ文庫)時空(とき)の旅人―とらえられたスクールバス〈後編〉 (ハルキ文庫)

読了日:1月30日 著者:眉村卓
====

生きさせろ!難民化する若者たち

リストに登録していると思っていたけど、登録していなかったので改めて登録する。よって、今年最初にに読了した本でないことを、あらかじめお断りしておく。

今から9年前に発行され、後に文庫化(ちくま文庫)されたが、今の雇用情勢は当時より悪化している。本書では「労基署は何もやってくれない」と訴えているが、今や労基署の窓口で失業者に対応する職員も、そのほとんどが「非正規社員」である。安倍政権は発足以来、国会で「自民党政権になって以来、雇用情勢は回復している」と強調するが、雇用が増えているのは「非正規社員」であり「正社員」は減少傾向が止まらない。工場の多くが非正規社員になったことで、日本企業の技術力は完全に失われた。

とある投資家が「日刊ゲンダイ」に執筆しているコラムで

「スーパーの『ダイエー』が凋落したのは、人件費を削ったからだ。パート社員が売り場の主力を占めていたのに、彼ら彼女らの勤務時間を削ったために、彼らは一斉に退職した。結果として売り場が荒れ、それが業績低迷につながった」

と書いていたが、その通りだと思う。正当な仕事に見合う真っ当な評価を下す経営者が増加しない限り、日本経済の復活はありえないと思うのは、私だけではあるまい。

時空(とき)の旅人-とらえられたスクールバスー

(中巻)

この本も登録が今月になっただけで、年末ギリギリに読了している。

本作は、‘70~’80年代にかけて一世を風靡したSF作家・眉村卓の作品の一つである。

スクールバスを乗っ取った少年曰く「性能の悪い」タイムマシンをつけたスクールバスは、昭和15年で特高警察にマークされている大学助教授が新たにメンバーに加わり、幕末動乱期→関ヶ原の戦いを経て、少年が目指す戦国時代に到着した。そして、じょじょに明らかになる「時間管理局」の実態。管理局員の本当の狙いは、少年の追跡以外に何か目的あるのではないか?と思わせる描写があちこちにちりばめられている。そして彼らが到着したのは、日本人なら誰でも知っているはずの歴史的大事件だった。彼らは時間をさかのぼる途中でとある武士と知り合い、その時代まで一緒に同行することになるが、彼の狙いはこの大事件を阻止することにあった…。

「戦争に強くなる本 入門・太平洋戦争―どの本を読み、どんな知識を身につけるべきか」

ひょっとして「この本も、リストに入れていなかっただけだろう?」と突っ込む来訪者のみなさんへ。はいそうです。この本も、リストに入れてませんでした_(_^_)_

この記事にもあるとおり、本書では小林よしのりをクソミソに貶している。それでは当の本人は反省しているのかというと…このブログ記事を見る限り、どうもそのようには見えない。彼がそもそも安倍政権がしゃかりきになって制定した「安保法制」に反対したのは「英米と一緒になって侵略戦争に加担するのがイヤ」なのであって、戦争そのものを否定しているわけではなさそうだ。北朝鮮が核武装に固執しているのは、あえてここではいわないでおく。だがその視点が小林だけでなく、安倍政権や「安全保障専門家」から窺えないのはどうしてか?安倍晋三は北朝鮮問題について聞かれる度に、なんとかの一つ覚えのように「対話と圧力」と答える。しかし端から見ると、この政権は北朝鮮と一戦交えたいという狙いがミエミエで、考えるだに怖ろしくなる。ミサイルを発射し、狙い通りに北朝鮮の政権が崩壊したとしよう。だがその結果何が起こるのか?その視点がまるでないのが一番怖いのだ。

紛争の心理学ー融合の炎のワーク

ここから、今年読了した本になる。

この本は「心理学」というタイトルがついてはいるが、本書で取り上げられている内容は、従来の「心理学」だけではなく、社会学・政治学・人類学・文化学・ジェンダーなど複数の視点を持たない読者には、理解するのは困難である。本書が発行された時期が、あの忌まわしい事件「9.11」直後ということもあり、書店でこの本を手にとってページをめくったり、興味を持って購入した人も多いだろう。私もその一人である。

彼は本書では繰り返し「対立が厳しい世界こそ対話が必要だ」と説く。彼は世間で「テロリスト」と呼ばれている人たちについて「社会で抑圧されている人々」と表現し、彼らから「敵」と認定されている我々は、彼らから見れば強い立場にある人間である事を忘れてはならないと主張する・そして対話を主導する立場にある人も、強い立場にある事を忘れてはいけないのだと述べる。おそらく世界中でテロ事件を起こしている「イスラム国(IS)」も、おそらく「自分たち以外の人間はみんな敵だ」という論理で行動しているのだろう。彼らとの対話が成立するのかは、はっきり言ってわからない。だからこそ彼らみたいな人間を、本気で対話の席に引っ張り出す手段を考えるべきなのだ。報復爆撃だけでは、この争いが終わることはないだろう。

セックスと恋愛の経済学

経済学の理論を用いて「SEX」と「恋愛」行動について読み解こうという、野心的な経済学の本。日本では「草食男子」「肉食女子」という概念が定着して久しいが、海の向こうでもそうだったのね。そして、男子に一定の経済力を求めるのも万国共通なのね。私みたいな「中年フリーター」は、読んでいて精神が鬱状態になってしまったわい。恋愛傾向が人種によって大きく違うのは「ああ、やっぱりね」と思ってしまう。経済力が高い階層ほどいい教育を受けられ、低ければ低いほど、まともかつ真っ当な教育を受ける機会が低い現実を、この本でもイヤというほど認識させられる。だが残念ながら、この本では「貧乏な人間が、どうやって恋愛を楽しめばいいのか」という視点では書かれていない。貧乏人は恋愛を楽しむな、ということなのだろうか。

恋よりブタカン~池谷美咲の演劇部日誌~

「浜村渚の計算ノートシリーズ」でおなじみの青柳碧人による新シリーズの2冊目。なぜ2冊目を紹介するのかというと、ただ単に1冊目が地元の書店で手に入らなかっただけ。「GOSICK」(桜庭一樹)の大ヒット以降、ミステリー×ラノベの分野にまたがる作品が多数見られるようになったが、本作もその流れを汲む一つである。本作の舞台は高校の演劇部、この設定は大ベストセラー「幕が上がる」を意識したものだろうか?作中においてふんだんに演劇用語をちりばめているが、その割に心の中に響いてこないのはどういうわけか?肝心のミステリーの推理も、どこか唐突感が否めないんだよな。それなりに伏線をはってはいるけれどね。

モア・リポートNow(3)からだと性の大百科

モアリポートNow三分冊の最終刊。先に刊行された二巻が「社会学」的な雰囲気を持っているのに対し、こちらは入門者向けの医学書という雰囲気を持っている。生理のメカニズムとリズム、妊娠、中絶、そして性病のこと。女性ですら先記のことをよくわかっていないのだから、異性である男性はなおさらだろう。「性病」の項目で、AIDSについて詳述しているところに時代性(本巻の刊行は1987年)を感じる。今でこそエイズとのつきあい方が判明しているが、この時代は「死に至る病」と認識されていたのだ。後半に収録されている、女性特有の悩みに専門家が回答する項目では、人によっては「上から目線だ」と感じる人も多いだろう。書籍版刊行から約30年経過したが、女性が抱えている問題も、そして彼女らが抱える理解しようという姿勢を見せない男性が相変わらず多いという事実を、男性は同理解したらいいのか?とはいえ恋愛に興味を示さない(したくてもできない)男性にとっては、これらの問題は他人事としか感じないだろう。

ちはやふる(30)

2016年初のコミック。

今春に「上の句」「下の句」の二本立てで映画化される本作も、いよいよ30の大台に到達した。真冬であるにもかかわらず、真夏に開催されるイベントのことについて書かれた作品を読むことに違和感を覚えるというヤボはいいっこなし。高3になる千早たちにとって、今度の大会が仲間たちと迎える最後の大会。千早の顔には、自分たちが後輩たちのために道を切り開くんだという意気込みや、本来ならいるべき人間がそばにいない寂しげな表情が垣間見える。そして本巻は「かるた=文化系」であるというイメージを見事にぶち壊してくれる場。「競技」という二文字がつくだけあり、そのトレーニング内容は運動部顔負けのメニューがてんこ盛り。そして迎えた準決勝。その結末やいかに?

時空(とき)の旅人-とらえられたスクールバスー

(下巻)

ハラハラドキドキの展開が続いていたこの物語も、この巻をもってめでたく決着。このままだと、大事件として語り継がれるはずの出来事が「なかったこと」にされてしまう。それを避けるべく東奔西走する主人公たちだが、思わぬ自体が彼らを待っていた。「事件が起きなかった」時間軸から「時間管理局」メンバーに襲撃され、彼らは窮地に陥る。命からがら逃げ回る彼らに、思わぬところから救いの手が差し伸べられる。交錯する時間軸の前に混乱するメンバー。事件は解決するが、時間軸がずれたことで、彼らが負われる原因となった人間が「いなかった」ことになる。そしてやってくる別れの時。戦国時代に残ったメンバーが、その後どんな人生を送ったかはあえて明記されないが、その選択に後悔はないということを信じたい。現代に無事帰還したメンバーは、現代だったらネットで袋だたきに遭うだろう。作者が今同じテーマを取り上げたら、たぶん結末は違っていただろう。

Facebook にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`yahoo` not found]
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る
Pocket

この本が出てから7年経つが、生活保護者の状況は当時より悪くなっているのはなぜなのだろう?

著者 :
明石書店
発売日 : 2008-09-30

2008年3月29日、東京都内のとある公立中学校で「貧困撲滅」を訴えるシンポジウムが開催された。このシンポジウムに参加したのは、ワーキングプアやサラ金で苦しむ人たちの救援団体、労組、婦人団体など総勢90を超える団体と、1,600人を超える参加者たち。この本は、そのシンポジウムの様子を収録した本である。

「貧困」と聞いて、まず頭に思い浮かぶのは「生活保護」制度だが、この本を読むと、生活保護受給者に冷ややかな目線を向けているのは日本だけで、海外では「苦しくなったら、生活保護に頼るのは当たり前」という意識が常識になっていることがわかる。日本における「生活保護」のあり方は、海外メディア関係者には異様に感じられるということが、冒頭に掲載されている、海外メディア特派員の討論会で明らかになる。

「生活保護」制度は、困窮者にとって最後の頼みの綱なのだが、生活保護受給者を諦めさせようとする「水際作戦」が、こともあろうに実際は役所・福祉事務所により実施され、それを阻止しようとする団体NGO側が行使するケースが多発している。実際に需給にこぎつけても、役所からあれこれ言われるケースも多い。年末年始の「年越し派遣村」運動のおかげで、派遣切りをされた人たちに対し、以前よりは生活保護需給がしやすくなったという報道もされているが、ほとぼりが冷めればまた「水際作戦」が復活するのではないかと、運動関係者は危惧している。

さらにこの本では「貧困問題」が、教育や徴税業務の面にも深刻な影響を及ぼしているということを明らかにする。貧困家庭では、必要最低限の学費を払えず高校進学をあきらめてしまうケースが多いという。福祉児童手当が削減される傾向にあるからだ。民間のボランティアが、貧困家庭の自動の高校進学をかなえようとサポートしているが、それでも彼らの将来は険しい。

徴税業務においても、サラ金の取立てと違わないほどのケースが目立つという実態が明らかになる。深刻化する不況による売上不振で、税を滞納する個人商店が急増しているが、国税徴収法や地方税法では、生活を破壊するような滞納処分や差し押さえを禁止する規定がある。しかしこの規定も先ほど触れた「水際作戦」同様、実際は守られていないケースが多いそうだ。小泉内閣が推進した「三位一体の改革」における地方交付税が削減された結果、税収不足を補うために地方自治体当局が、税金滞納分の分割納付を認めなくなったからである。各種控除が廃止され、生活が立ち行かなくなっているにもかかわらず、である。====また、この本では消費税の正体についても明かされている。消費税は売上金の5%を徴収するのだが、消費税法では、輸出分についてはこの税金は課税対象外とされている。また企業の総仕入は非課税とされているが、大企業の多くは人件費を外注分として計上しているため、その分には消費税が課税対象とならないというのである。財界が「消費税値上げ」を叫ぶのは、こういう理由があるからだということが、このシンポジウムで明らかになるのだが、この点を指摘するメディアは皆無である。

最後に、労働組合関係者による討論会の様子が収録されている。連合全労連傘下のフリーター労組、独立系のフリーター労組が参加したこのシンポジウムで、この問題はもはやイデオロギーを超えたものになっているということが認識されるのだが、 残念ながら連合本体内部から、このシンポに参加したことに対する批判の声が多数上がったという。連合傘下の有力労組幹部の中には「われわれは『年越し派遣村』みたいなことはやらない」とはっきり言い切る者もいる。しかし連合傘下の電機労連所属の一部労組は、派遣切りにあった労働者のためにカンパを募るところも出てきているなど、組合によって対応に温度差があるのが残念だ。

シンポを企画し、この本を編集した「反貧困ネットワーク」は、分野と政治的スタンスを超えたつながりを作ることを趣旨として活動するが、このシンポに参加した団体は労組・生活保護支援団体を始め、医療支援団体、教育など広範囲に広がっている。

この本を読んで、日本の「貧困問題」がどんな問題を抱え、具体的にどのようにすればよいのかを理解してくれることを切に願う。

ここまでが、前のブログに書いたときの文章である。この書評を書いてからかれこれ7年経つが、生活保護受給者が置かれた状況は、当時に比べて格段に悪くなっているというのが実態である。

生活保護受給者に大打撃を与えたのは、2012年4月に発覚した生活保護受給問題である。これはとある芸人が、扶養能力があるにもかかわらず母親に生活援助をせず、母親は15年間も生活保護を受給していた。ところがこの事態をとある国会議員が国会で取り上げ、マスコミがセンセーショナルにこの問題を取り上げたことで「生活保護受給者バッシング」が起こった。もともと生活保護制度は、財政的に頼れる人がいない人のための最後の手段だったが、このことがきっかけで生活保護法は「改悪」された。具体的には、保護受給対象者は親戚全員で対象者の面倒を見るようにし、それができない場合に限って「受給対象」になる制度になったのである。制度が改悪される前は、受給が決定すると住んでいる自治体担当部署から、当座に必要な食料品などが送付された。またまじめに就労したり、就職活動をしている受給者に対しては、夏季・冬期に「ボーナス」という形で臨時給付があり、これは受給者にとっては大変役に立っていたのだが、開成を期にこの制度が廃止されたばかりか、月々の受給額も減らされ、今年(2015年)になってからは住宅手当も減額された。心ある担当者は、この制度改悪に反発しているが、この声が為政者には届かない。「生活保護受給者バッシング」では大々的に報道したメディアも、この問題に関してはほとんど触れることはない。

当時の報道では「雇い止め」という言葉がしきりに使われたが、なぜメディアは「勤務先を解雇された」と書かないのか、不思議でならなかった。今から考えるに、派遣労働者を雇用していた会社の多くは、メディアの大スポンサーだから、彼らも大企業のことを悪く書けないのだろう。というより、記者と大企業関係者には大学の同級生というケースが多いのだ。だから企業に入った人間はメディアにちょっとした圧力をかけられるだろうし、メディアに入社した人間も「自己規制」するようになる…とウダウダ書いているが、ようは企業もメディアも、自分より立場の弱い人間のことを考えていないのだろう、と思ってみたりしている。

先述の通り生活保護受給者バッシングが吹き荒れたが、実際の不正受給者は数%に過ぎない。一部の不正利用者のために、多くの真っ当な利用者が白眼視されるのはたまらない。バッシングといいボーナス廃止といい、多くのまじめな受給者を虐げるのはいかがなものか?「貯金しろ」と福祉事務所はいうが、正社員ですら貯金できないほどの安月給で、過労死寸前までこき使われている現状を、誰も厳しく指摘しないことの方が異常なのだが。

ああ、つくづく貧乏が憎い。

Facebook にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`yahoo` not found]
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る
Pocket

格差拡大政策を実施した人間が、何事もなかったかのように「格差問題の弊害」を説く。

まるでマンガである。

ライバル誌「東洋経済」に遅れること2週間、「週刊ダイヤモンド」も2015年2月14日号でピケティ特集を組んだ。東洋経済が、冊子の半分のページ数を割いたのに対し、こちらは30ページ強。最大の目玉は、今をときめくメディア人・池上彰をピケティのインタビュアーに起用したこと。彼は「表立った体制批判(特に警察・官僚機構に対して、彼はほとんど批判めいたことは言わない)はしないが、物事を解りやすく伝える技術は日本一のメディア人(あえて「ジャーナリスト」とは書かない)」と個人的に思っているが、今回も期待に違わぬ働きをしてくれた。

池上はピケティの今回の業績は3つあると指摘する。

・世界各国の膨大なデーターを分析し、「富めるものはますます富み、そうでないものとの格差はますます拡大する」資本主義の問題点を明らかにし、新自由主義者が強調する「トリクルダウン」を明確に否定した。「おかしい!」と思う一般庶民の思いを見事に説明したこと

・「今の経済学は、あまりにも数学的な力が強すぎて、世の中が見えなくなってしまった。だから今こそ経済学を復権させるべきだ」と強調していること

・「r(資本収益率)>g(経済成長率)」という不等式を明示し、資本によって得られる収益は、働く人の賃金を上回るから、格差が自然に広がっていくという図式を提示したこと

3つめの項目については、普通の経済学者だったら精緻な理論を組み立てようとするが、ピケティは「r>gを論理的には説明できるが、その理由はわからない。私が分析したデータをたたき台にして、みんなで考えてください」というスタンスをとっていることを、池上は「謙虚だ」と賞賛している。

池上とのインタビューで、ピケティは

「現代経済学は、数学を利用してかなり複雑な経済理論を作っているが、それが社会に役に立っていない。マルクスの経済学とは違う」

と、アメリカを中心に流行している新自由主義経済を批判している。またピケティと似たような研究は1970~80年代に行われていたが、すべて手作業だったために作業者は疲労困憊し、完成した本は読み手に苦痛を強いるだけで、喜びを与えることが出来なかったことを明らかにした。インターネットが普及したことで、世界中の研究者がデーターを提供しやすくなり、調査の透明性を高く保てるようになった。データー収集が劇的に楽になったことで、研究者は歴史的な解釈の作業に注力できるようになったのである。====

また彼は、rとgの格差がこれ以上広がりすぎると、富の集中がすすんで格差は拡大する、それは民主的な社会にとって矛盾が生じると訴える。東大での講演において、ピケティは学生に

「親は選べない。格差の問題を解決するのは我々市民であり、(我々は)世の中をよくするために努力し、最善を尽くすべきだ。私の本(21世紀の資本)は、そのために書いた」

と述べた。この本の目的は、知識の民主化にある。民主主義を社会に広めるためには、専門家だけが経済学を独占してはいけない。世界各地で広がる格差拡大と若年層失業率の上昇は、民主主義の不安定の原因になり、放っておくと取り返しのつかない事態になる。インタビューを見る限り、彼は現状にかなりの危機感を持っているようだと言うことが認めれる。

同号では「21世紀の資本」を読んだ11人のインタビュー記事が掲載されている。意見を寄せた全員が何らかの部分で共有でこるところはあるようだが、彼らの中には違和感を感じる意見を開陳している人間もいる。

その代表例が竹中平蔵である。彼が小泉政権でやったことは、心ある人なら重々承知のはずだからここでは書かないが、自分で格差拡大につながる政策を推進しながら、このインタビューで

「世界でグローバル化が進んだことで、絶望的な格差が生じている。30代の格差は深刻で、その要因の一つは、正規社員と非正規社員の格差である」

とイケシャーシャーと語っている。しかも彼は、このインタビューで

「正規社員と非正規社員の格差が広がったのは、競争ではなく制度が生み出したものである、それは一部の大企業の正社員が守られすぎているからだ」

と平然と語るその神経は、常人にはとても理解不能である。彼はこのインタビューの中で「正規も非正規も同一条件にすればいい」と述べているが、現在彼が派遣業界最大手企業「パソナ」の会長を務めているという文脈でこの記事を読む限り、彼が持っているどす暗い野望を感じてしまう。「派遣会社会長」という立場でこんなことを発言するのは、一体どんな狙いがあるのだろうか?竹中は最近、別の会合で労働者を解雇し易くしろと発言したそうだが、解雇条件が緩和すれば、派遣業界が儲かるのは目に見えている。自分の儲けしか考えていない、とんでもない学者である。

大阪大学副学長の大竹文雄氏のコメントにも、違和感を覚えざるを得ない。彼は

「日本の格差は他国よりマシであり、失業率も改善され、労働者にも追い風になっているのに、昨年(2014年)末の総選挙で、格差問題が問題になっているのはどうなんでしょう」

と、何かすっとぼけたことを言っている。あの、あんた経済学者ですよね?10年前に比べて、上位1%はさほど増えていないのは確かだが、これが「上位10%」になると、10年前とは比較にならないほど増えているのですよ。そのことを無視して「日本の格差は、外国よりはマシ」と言われても、説得力がありませんってば。

「『大金持ちほど国家に依存しながら税金を納めず、正直者がバカを見る。そんな状態を許していると、資本主義が最終的に自分の足下を掘り崩す』と言うことを、ピケティはやんわりと指摘したかったのではないか」

とコメントする池田信夫氏(アゴラ研究所代表取締役)も、彼の展開する論証は荒っぽい展開が目立つと言うが、その根拠を指摘した部分は皆無(ひょっとしたら、会員サイトでは読めるのかも知れないが)。それだったら、ピケティの解説本なんか書かなければいいのに、と思ってしまう。派遣会社ザ・アール会長奥谷禮子氏のコメントは、ここで取り上げるに値しないほどたちが悪く、かつ方向性が全く見当違いである。水野和夫・日本大学教授は、この本はフランス革命後、身分や性別をなくしたから、誰しもが能力に応じて資産や所得が決まる社会が来たと思っていたが、それは欺瞞であった言うことを証明したことを評価し、橘木俊詔・京都女子大学客員教授、森永卓郎・獨協大学教授らは、格差拡大や貧困問題に焦点を当てたことを評価した。飯田泰之・明治大学准教授は、今後日本は「資産を持つ中流階層の6割と、それを持たない4割の格差は今後広がる」ことを危惧し、萱野稔人・津田塾大学教授は、この先も低成長時代は続くと予測し、機会平等のための政策が必要になってくると訴える。「日刊ゲンダイ」の連載で、ピケティの考え方に懐疑的な視線を向けていた作家・佐藤優だが、21世紀の資本については、主張の展開は誠実だと評価している。ただ彼は、ピケティの唱える資産課税政策については、国家と富裕層は持ちつ持たれつの関係であり、政府はそこに手を突っ込めないだろう。もし突っ込めるように国家権力を強化したら、権力が暴走し、かつての国家資本主義・国家社会主義に近い、窮屈な世の中になると警告する。この思想は池田信夫と正反対で面白い。

Newsweekも2015年2月24日号でピケティを特集しているが、こちらの扱いは実に冷ややかだ。何より、ピケティがアメリカの経済学界に失望した理由について、一言も触れないどころか、ピケティの理論に反論するMITの学生を紹介する始末である。仲正昌樹・金沢大学教授はサンデルネグリ、自分の専門研究分野であるハンナ・アーレントみたいに、一過性のブームに終わるだろうと言っているが、一般人の「学説ブーム」が一時期だけなのは、毎度毎度のことであることは、ご本人だって解っているはずである。文系のみならず、理系の「超伝導ブーム」をはじめ、日本人がノーベル賞を受賞する度に、それまで受賞者の実績に知らんふりしているメディア(特に「大マスコミ」と言われる人々)が大騒ぎするのを、苦々しい思いで見ている人たちが世間には沢山いるんですよ。

アーレントは著書の中で「自分の意思を持たず、命令に唯々諾々と従っている人が一番がちが悪い」と告発し、ネグリは世界のグローバリぜーション化とともに出現した新たな脅威について訴え、サンデルは、我々に異なる人たちとの対話の重要性を教えてくれた。そしてピケティは、我々に民主主義の重要さと、フランス革命の理想が、未だに達成できていないことを示して見せた。学説の一過性ブーム、大いに結構。我々が彼らの言いたいことを正確に捉えれば、未来は明るいと思う。

Facebook にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`yahoo` not found]
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る
Pocket

経済学の理論書これだけ注目を浴びるのは、マルクスの資本論以来なのではないか?

著者 :
東洋経済新報社
発売日 : 2015-01-26

世界中で巻き起こっている「ピケティ旋風」が止まらない。

去年(2014年)に書かれた「21世紀の資本」は900ページ(英語版、日本語版は728ページ)を超える大著にもかかわらず、世界中で100万部以上(日本では7版13万部)が売れる大ベストセラーになった。お堅い学術書がこれだけ売れるのは異例の事態で、世界中のメディアは、彼の一挙手一投足に注目している。「彼は経済学界のロックスターだ」と書くメディアもあるのは、公式会見でもネクタイを着けない彼の服装によるものである。

トマ・ピケティは1971年フランス生まれ、両親は1968年のパリ5月革命に関わった、市民運動の闘士。22歳で経済学博士号を取得した直後、マサチューセッツ工科大学(MIT)准教授に就任。だがアメリカの経済学界の雰囲気になじめず、わずか2年でフランスに舞い戻る。帰国後は、フランス国内で「一流」と言われる学校で教鞭を執る。2000年、フランス最優秀若手経済学者賞を受賞。同年社会科学高等研究院代表研究者に就任。2006年パリ経済学校の創立に参画、初代代表に就任するも、翌年からは既知の政治家が大統領選に出馬し、その人物を応援することを理由に代表の座を離れた。現在は、同校教授として教鞭を執っている。

この書籍は大著であるが故、購入者は海外・日本ともいわゆる「知識階級」と言われる人が多い。扱っているテーマがテーマだから、個人的には日本語版は2~3冊の分冊にして、貧乏人にも変えるようにするなどの配慮が欲しかった。700ページ超で税込みで6,000円を超える値段は、貧乏人には購入を躊躇してしまう値段である。

「理解するのが難しい「読む時間がない」と嘆くサラリーマンに配慮して、各雑誌メディアはこぞって「ピケティ特集」を組み、「21世紀の資本」での彼の主張をコンパクトに紹介している。私自身、3種のメディア記事を読んだので、その中身を簡単に書いてみたい。

石橋湛山以来のリベラル寄りのスタンスをとる「週刊東洋経済」は、2015年1月31日号で、全118ページ中50ページをピケティの特集に費やしている。特集記事冒頭の6ページで、彼の生い立ち、研究活動、政治スタンス、アベノミクスの評価、話題を呼んだ発言を紹介している。

先述の通り、彼は22歳の若さでMITの准教授になるが、わずか2年で帰国した。アメリカの経済学者が現実世界をあまり知らないまま、数学的な純粋理論ばかりに没頭していること、彼らが他分野の社会学者を見下していることに我慢ならなかったからだ。皆様ご存じの通り、アメリカの経済学者は新自由主義を信奉する人間が多いが、ピケティはそれについて

「自分たちがトップ所得層におり、彼らの多くはアメリカ経済はかなりうまく機能しており、とりわけそれは才能と実力に正しく報いているからだと信じている」(同号p50)

と、辛らつな言葉を投げつけている。====

東洋経済の特集では、「21世紀の資本」の内容とそこで展開される理論の要点をわかりやすく紹介しており、さらにこれまでの経済学史の流れと意見対立が起きる理由、代表的な反対意見を掲載している。

元米連邦準備制度理事会議長 アラン・グリーンスパン
「(彼のやり方は)資本主義のやり方ではない」
ジョージメイソン大学教授 タイラー・コーエン
「最も成功している市民への法的・政治的・制度的経緯と支援がなければ、社会はうまく機能しない」」
ニューヨーク市立大学教授 デヴィッド・ハーウェイ
「『21世紀の資本』は、資本について全く何も語っていない」
MIT教授 ダロン・アセモグル
「格差を考える上で、最も重要な制度的要因を無視している」
スタンフォード大学教授 チャールズ・I・ジョーンズ
「ピケティの主張は、推論の域を出ていない」

というのが主だった反対意見だが、個人的にはどれも賛同できない意見ばかりである。何よりも彼らの反論は、ピケティが感じた

「現実世界をあまり知らないまま、数学的な純粋理論ばかりに没頭している」

ことについて、何も答えていない。

なぜこれほどまでに、経済学は深刻な対立を引き起こすのか?このことについて、早稲田大学の竹田青嗣教授は

「現代の経済学は、資本主義が進んだ道を後付けすることしかしておらず、どうしたら調和的に成長できるのかの答えは全く出ていない。高度な数学・統計学を駆使して自然科学になぞらえることが、経済学には出来ていない。実証主義を標榜しているのに、実際には2~3の学派が常に対立している上、特定の政治的勢力や回想の利害を各派が代弁しているから、自然科学のように普遍的な理論に統合されることがない。これでは、一般人は何を信じたらいいのかわからない。専門家の対立は、アンチ○○になってしまっているのが現状だ」(同号p66〜p67インタビュー要旨)

と述べ、その解決法については

「価値観の差異を認め、普遍的ルール作りへの歩み寄りを」

と提案しているが、これはNGOに所属している人たちがl、長年言っていることと同じである。だが、いざやろうとするとなかなか難しい。「多文化共生」を唱え訴えているNGOの人間も、自分たちの唱える意見・自分たちと違う階層及び学歴の人間の意見を聞いたり、親しく交流しようという姿勢が見えないのが現実だ。年代が若ければ若いほど、その傾向は強くなる。いくら相手の言い分が正しいと思っていても、ある問題で団体同士の根深い確執があると「相容れない」と言い張る可能性が大だ。お互いが自分の言うことが正しいと思っているから、絶対自説を譲らないからたちが悪い。

「こんなに面白い!最先端経済学」というタイトルがついた後半の特集では、8つの視点から経済学の見方を紹介している。印象に残ったのは、一頃NGOの世界で注目を集めた「マイクロファイナンス」の項目である。2002年にバングラデシュで設立された、世界最初のマイクロファイナンス機関である「グラミン銀行」の知名度が広がると「貧困撲滅の切り札になる」と言われたが、返済方式が借り手側に厳しいこと、短期的に収益が見込める事業以外は、利用者にとってメリットが見込めないこと、グループ内の連帯責任と相互監視の圧力が強いことなどが原因で、当初の思惑ほど貧困撲滅には効果がないのが現実である。もっとも、マイクロクレジット側でも個人単位での融資制度実施、返済期間やその方式などに改良を加えて利用しやすくしてるそうなので、新制度導入でどれだけ効果があるのか見守りたいところである。

さて、次回は「週刊ダイヤモンド」「Newsweek」の記事の感想を取り上げてみる。

Facebook にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`yahoo` not found]
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る
Pocket

2014年11月の読書リスト

このブログを開設して以来、はじめて2日連続で投稿できそうだ。奇跡だ。

というわけで、本文。

2014年11月の読書リスト

月刊少女野崎くん 公式ファンブック (ガンガンコミックスONLINE)月刊少女野崎くん 公式ファンブック (ガンガンコミックスONLINE)

読了日:11月5日 著者:椿いづみ
ウィッチクラフトワークス(7) (アフタヌーンKC)ウィッチクラフトワークス(7) (アフタヌーンKC)

読了日:11月7日 著者:水薙竜
吉野北高校図書委員会 (MF文庫ダ・ヴィンチ)吉野北高校図書委員会 (MF文庫ダ・ヴィンチ)

読了日:11月7日 著者:山本渚
小学4年生の世界平和 (ノンフィクション単行本)小学4年生の世界平和 (ノンフィクション単行本)

読了日:11月19日 著者:ジョン・ハンター
吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋 (MF文庫 ダ・ヴィンチ や 1-2)吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋 (MF文庫 ダ・ヴィンチ や 1-2)

読了日:11月20日 著者:山本渚
革命機ヴァルヴレイヴ 流星の乙女 (2) (電撃コミックスNEXT)革命機ヴァルヴレイヴ 流星の乙女 (2) (電撃コミックスNEXT)

読了日:11月20日 著者:大堀ユタカ
難民高校生----絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル難民高校生—-絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル

読了日:11月28日 著者:仁藤夢乃

月刊少女野崎くん 公式ファンブック

昨年7〜9月にアニメ放映され、人気に火がついた「月刊少女野崎くん」の公式ファンブックである。この作品は書物情報雑誌「ダ・ヴィンチ」のBOOK OF THE YEAR2014 コミック部門の8位にランキングされたことからも、その人気のほどがうかがえる。

登場人物の詳細な設定はもちろん、各キャラクターへのQ&A、ボツになったネタ、さらには出版にまつわる専門用語、少女マンガを書くにあたって必須の知識など、ファンが見たら泣いて喜ぶような情報が満載。宣伝用のPOPや登場人物のアンケート結果、さらには「野崎梅太郎」のインタビューまで掲載されるなど、その内容はまさに至れり尽くせりである。

ウィッチクラフトワークス 第7巻

これまた、昨年1〜3月に上映された、同名アニメの原作本である。今巻では、アニメ終了後の物語が展開されている。

最初はちょっと変わった作品だなと思っていたのだが、アニメの話が進むにつれ、その世界観にどっぷりとはまってしまった。

「魔法」を扱ったファンタジー作品だが、一番の特徴は「主人公」は「ヒロイン」に守られる存在である、ということ。ヒロインが主人公に対する態度は、もはやストーカーなのだが、その愛情はひしひしと伝わってくるのが不思議である。「自分も、こんな彼女が欲しい」と思う読者は多いだろう。====

吉野北高校図書委員会

吉野北高校図書委員会2 委員長の初恋

徳島県にある県立高校の学校図書館を舞台に繰り広げられる青春小説シリーズである。当初の発行元が、KADOKAWAグループと合併し、新たに角川文庫から再発行されているが、ここでは当初の発行元の画像を掲載しておく。

作者が徳島で生まれ育ったからか、登場人物は徳島弁で会話するのが特徴だが、会話や文体のそこかしこに暖かさ、緩さというのが感じられる小説。どことなくまったり、ゆったりした気分になり、癒やされる。ぎすぎすした社会を描いた小説が多く溢れている中、この作品の世界観は貴重だと思う。(3)ではクラスメートの恋愛模様、(4)では、主人公である図書委員長が顧問の教師に抱く淡い恋心、そして進路の悩みが描かれる。

小学4年生の世界平和

アメリカの小学校で「世界平和」について教えている教師が書いた本である。彼は自ら「ワールド・ピース・ゲーム」というゲームを考案し、どうしたら世界中が平和になれるのかを生徒に教えている。このゲームを知った子どもたちは、戦争のむなしさと恐ろしさ、そして多様性の大事さを学んでいく。

だが残念なのは、著者が提唱する「ワールド・ピース・ゲーム」がどんなルールに基づいて行われるのか、一切触れられていないことだ。本書で紹介されている設定も大まかなものに過ぎないから、なにをどうしたらこのゲームが終わるのかが理解できない。10ページ程度でいいから、このゲームのルールについて詳しく触れてくれればいいのにと思った。

革命機ヴァルヴレイヴ 流星の乙女 第2巻

サンライズ制作のロボットアニメ「革命機ヴァルヴレイヴ」のヒロインの一人、流木野サキを主人公にしたスピンオフ作品の続編。本編2ndシーズンをベースに、そこで触れられなかったサキの視点を盛り込んでいる。サキと指南ショーコや連坊小路アキラ、アードライのやりとりは本編では出てきていないので、これらのシーンが本編に盛り込まれていたら、このアニメの評価も変わっていただろうに…と思うと残念だ。愛する恋人・時縞ハルトと死別してから200年、彼女は一体何を思って闘い、そして生きてきたのだろうか?それをテーマにしたアニメを作って欲しいなあ。ダメかな?

/h3>(7)難民高校生—-絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル

女子高生の人権を守るために日々奮闘しているNGO団体代表が、これまで自分が辿ってきた壮絶な半生を赤裸々に綴った自叙伝。

家族との不和、学校内での孤立、世間から「不良・落ちこぼれ」と名指ししている子どもたちと繰り返してきた深夜徘徊、そして高校を中退し、荒れた生活を送る日々…。

だがそんな彼女にも理解者が現れたことで、荒れた生活から脱出し、大検に合格して大学生になり、この荒れた社会をよくしようと奮闘していく。

この本を見て感じることは、人生はちょっとしたことで転落もすれば、暗闇から救われることもあるということ。

これは彼女だけではなく、誰にでも起こりえることなのである。

Facebook にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`yahoo` not found]
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る
Pocket

2014年2月の読書リスト

貧乏なのに

ただでさえ本を置く場所がなくて、家族から文句をいわれているのに

本屋の世界が大好きだから困ってしまう。

お目当ての本があって書店に立ち寄っても、次から次へと

洪水のように出版される新刊書に目がくらみ

結果として別の本を買ってしまうというのは毎度のこと。

この読書メーターに登録された「読みたい!」という本はいつの間にかに2,000冊を突破した。

実際にはこれだけの本を読めるわけがないし、読めたところで理解できるかどうかも怪しい。

それ以前に、置くスペースの問題があるんだけどね。

天野祐吉のCM天気図 傑作選―経済大国から「別品」の国へ天野祐吉のCM天気図 傑作選―経済大国から「別品」の国へ

読了日:2月4日 著者:天野祐吉
名門高校人脈 (光文社新書)名門高校人脈 (光文社新書)

読了日:2月19日 著者:鈴木隆祐
館林発フェアトレード―地域から発信する国際協力館林発フェアトレード―地域から発信する国際協力

読了日:2月24日 著者:東洋大学国際地域学部子島ゼミ
DAYS JAPAN (デイズ ジャパン) 2014年 03月号 [雑誌]DAYS JAPAN (デイズ ジャパン) 2014年 03月号 [雑誌]

読了日:2月28日 著者:
ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)

読了日:2月28日 著者:堤未果

読書メーター

.天野祐吉のCM天気図 傑作選―経済大国から「別品」の国へ

昨年10月に惜しまれつつ亡くなった、元「広告時評」代表・天野祐吉氏が、朝日新聞に約30年間連載した同名の名物コラムの傑作選である。全部読んでみて、このコラムに掲載されたコラムを全部読んでみたいなと思った。一部の抜粋だけを纏めるなんてもったいない。

すべてのコラムに共通しているのは、弱者へ向けるまなざしの優しさ。そして権力への辛辣な視線。

興味深いのは、2008年以降のコラムの字数が、開始時に比べてかなり減っていることが目立つこと。

その理由はいったい何だったのだろう?

余談だが「広告時評」で長年にわたってコンビを組んだ島森路子が闘病生活に入ったからだそうだ。このコンビがこの世で見られないというのが悲しい。同じ年に天に召されたというのは、何かの因縁か?

名門高校人脈

文字通り、各都道府県に所在している国公私立高校出身者の記録をまとめた本である。

本文を読むと「へえ、あの有名人はこの学校を出ているのか」とびっくりするところもあるがそれだけのことであり、その著名人が在学中、どんな生徒であったのかを触れている記事はさほど多くない。校風についても、地元の人が見たら「そんなこと、誰でも知っているわ」という程度でしかない。

著者によれば、この本を書こうとするきっかけになったのは「どの大学を出たか、よりも、どの高校を出たか、を知るほうが、その人の「人となり」がわかるような気がしたからだという。何よりも、あれだけの参考文献を参照しながら、著者が書いた文章はこの程度だったのか?あとがきに「名門には、優秀な人材が集まる」とあるのなら、なぜ「優秀な人材が集まる」のか、それを解明するのもライターの仕事ではないだろうか?

ただし、この学校に収録されている「名門高校」の中には、進学面において他校から大きく引き離され、すっかり落ちぶれている学校も多々存在することを付け加えておく。そう、この本で収録されている「名門高校」とは進学面で実績を上げている(あげていた)学校「限定」である。職業教育で実績を上げている「名門高校」も多々存在するのだから、そちらも取り上げなければ不公平というものだろう。====

館林発フェアトレード―地域から発信する国際協力

東洋大学国際地域学部の子島(ねじま)ゼミが、群馬県にある東洋大学板倉キャンパスを拠点にして展開したフェアトレード活動の記録をまとめたものである。原稿作成には子島教授(本書執筆当時は「准教授」)を中心に、原稿作成には2009年に同ゼミ所属の学生7名も参加している。余談になるが、当時の所属学生の一人(女性)は、私のリアル知人である。

「フェアトレード」とは「公正(FAIR)な貿易(TRADE)」を目指すNGO活動のひとつであり、日本のNGOではシャプラニールなど国際支援系NGOの多くが、これらの活動に関わっている。「発展途上国」の、とある地域の「特産物」を「妥当」な(つまり、その地域の住民の生活が成り立つ)値段で買い上げ、先進国の市民に販売するという活動で、日本でもそのためのネットワークがいくつか存在し(代表的なネットワークはこちら)、毎年春には定期総会・学会が開催されている。この本には、日本国内で「フェアトレード」の精神を根付かせようと奮闘する、学生の活動の記録記載されている。

日本で「フェアトレード」が普及しないのはいくつかの要因が挙げられるが、最大の問題なのは、大学で学んだことが、一般社会に還元されないことであろう。実際に私の知人も、留学経験があるなど高度な語学力を持つにもかかわらず、卒業後は、学んだことを全く生かせない仕事をしている。大学生の就職難が叫ばれて久しいが、学んだことが生かせる職場が増えない限り、大学生の就職問題は解決しないだろう。私の知人は「この大学は、優秀な人材をムダにしている」と嘆いていたが、私もその意見に同意する。

DAYS JAPAN (デイズ ジャパン) 2014年 03月号

今月号の目玉特集は「3年目の福島」。あの大震災から3年たった福島が、今どうなっているかを報道している。「ゼロ地点」は建物の崩落危機が一段と募り、いつ何が起きてもおかしくない状態であり、食べ物についても、気にする人とそうでない人の格差が広がっている。母親たちは地域内のホットスポット探索活動を続け、安全な食材調達に奔走する。その過程で家庭が、親族が、そして地域が分断され、支援者たちは心を病む。事実と正義を唱えるものが、多数派から疎外され、孤立する不条理。だが安倍政権は、これだけの危機的な状況にも、原発推進の姿勢を改めず、あろう事か、日本の不完全な原発技術を海外に輸出しようと目論む。後半の特集は、シリア内戦と南シナ海を巡る領有権争い。どちらにも共通しているのは、理研と資源に目がくらんだ人間に泣かされる無辜の民がいること。

ルポ 貧困大国アメリカ

こちらについては、既に別記事で掲載したので、あえてこちらでは触れない。この本の続きとして、作者はいくつかの本を出版しており、それらはすべてベストセラーになっている。本書が出版されてからかれこれ6年近くたち、政権交代もあったが、アメリカの現状がよくなったように見えないのは、為政者の考えていることは同じからだと思わざるを得ない。

Facebook にシェア
このエントリーをはてなブックマークに追加
[`yahoo` not found]
このエントリーを Google ブックマーク に追加
[`evernote` not found]
LINEで送る
Pocket

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。